「思い草」

秋風が、さわさわと通り過ぎ、
細く高い草の枝の先につけた淡い紫色の花が揺れて、
庭は今、爽やかに華やいでいる。


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野菊に似た花は、花芯の黄色を、淡紫色の舌状花が優しく包み込み、素朴だがこの上なく上品で、
云いようのない美しさだ。
草丈は2メートルを超えるものもある。それでいて風にも強く健気なのである。



日本には長い歴史の中で、生まれ育まれて来た伝統の色がある。
その日本の伝統色(465色)の中に「紫苑色」と云う紫系の色がある。
まさに“この色”、この花の名前から名づけられた色なのだ。

そう、この花の名前は「紫苑(シオン)」。



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「紫苑」の花には、「思い草」と云う別の名がある。

それは、あの「今ハ昔・・・(今となっては、昔のことだが・・・)」と云う書き出しで始まる、
千年もの昔に編纂された説話集、「今昔物語集」の中に出てくる。

それの巻三十一、第二十七にある。父を亡くした兄弟の説話。

兄弟二人、萱草(くわんざう)ト紫苑(しをに)トヲ殖タル語(こと)
『今ハ昔、□□ ノ国□□ ノ郡ニ住ム人有ケリ。男子(なんし)二人有ケルガ、其ノ父失(うせ)ニケレバ、其ノ二人ノ子共戀(こ)ヒ悲ブ事、年ヲ経レドモ忘ル事无カリケリ。・・・(中略)
而ル間、漸ク年月積(つもり)テ、此ノ子共公ケニ仕ヘ私ヲ顧ルニ難堪(たへがた)キ事共有ケレバ、兄ガ思ケル樣、「我レ只ニテハ思ヒ可□□ キ樣无シ。萱草ト云フ草コソ、其レヲ見ル人思ヲバ忘ルナレ。然レバ彼ノ萱草ヲ墓ノ邊(ほとり)ニ殖テ見ム」ト思テ、殖テケリ。・・・(中略)、
「我等二人シテ祖ヲ戀ツルニ懸リテコソ、日ヲ暗シ夜ヲ明シツレ。兄ハ既ニ思ヒ忘レヌレドモ、我ハ更ニ祖ヲ戀ル心不忘(わすれ)ジ」ト思テ、「紫苑ト云フ草コソ、其ヲ見ル人心ニ思ユル事ハ不忘ザナレ」トテ、紫苑ヲ墓ノ邊ニ殖テ、常ニ行ツヽ見ケレバ、弥(いよい)ヨ忘ルヽ事无カリケリ。』 (*文中の□□部は欠字)


亡父の墓に、兄は悲しみを忘れるために「忘れ草(萱草:カンゾウ)」を、弟はいつまでも忘れないための「思い草」を植える
二人の兄弟の話だ。
この「思い草」が「紫苑」だった。

その花の花言葉は、今昔物語の説話通りの 「追想」。
今年の彼岸の墓参りには、この花を手向けた。


山形の鶴岡地方では、この「紫苑」のことを「彼岸花」とも呼ぶそうである。
何故そう呼ぶなのか分かるような気がする。
鶴岡の人たちが代々、「今昔物語集」のことを知ってか知らずか、とても興味深い話である。



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「今トナッテハ、昔ノコトダガ・・・」、
平安の昔、大宮人たちは、この色を好んだと云う。
きっと、粋で色彩的センスに溢れた人たちが多かったのであろう。



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この記事へのコメント

2010年10月08日 17:35
シオンは色、形共に言われてみると「思い草」にピッタリの草花です。質素で素敵な花ですね。
2010年10月08日 19:57
今晩は。
シオンが咲き始めましたね。
小さい頃から裏庭にあって、随分背が高く、
硬くて折れにくかったのを覚えています。

祖母や母はこの花のことを「夜なべ花」と呼んでいました。
この地域の方がそのように呼んでいたのだと思います。
「夜なべ花が咲いてきた・・ボチボチ綿入れを縫わんとなあ!」
祖母を思い出します。
夜なべの始まる時期の目安の花だったんですね。
庵主
2010年10月08日 20:25
信徳さん、こんばんは。
コメント有難うございます。「思い草」と云われる花は他にも幾つかありますが、この「紫苑」の花もそう呼ばれているようですね。
優しい思いやりの気持にぴったりの花姿ですね。
庵主
2010年10月08日 20:36
やろいさん、こんばんは。
コメント有難うございます。やろいさんの9月10日のブログ記事拝見しておりました。「夜なべ花」と云う呼び名も親しみがあっていいですね。
そんな話からしても、昔の人たちは自然と共生して日常を営んでいたことがよく分かります。自然を大事にしていた証拠ですね。どこでどうしてそんな思いが切れてしまったのでしょう。(笑)
ちなみに、「夜なべ花」で検索してみたら、トップとセカンドにやろいさんのブログ記事か紹介されていました。やっぱり、ニッコリしましたよ。
秋の花粉症大丈夫ですか?ご自愛ください。
2010年10月08日 21:07
菊の季節になったのですね。
シオンと思っていましたが、これから紫苑と書くようにします。
そうしたら、庵主さんのこの記事を思い出すことでしょう。
素敵な記事を有り難うございました。
庵主
2010年10月08日 21:47
ハッピーさん、こんばんは。
コメント有難うございます。そうですね、菊の季節がやって来ました。「紫苑」はキク科の仲間の花では開花先兵ですね。これから冬をむかえるまで暫くキクの花の競演と饗宴が始まります。(笑)
2010年10月09日 06:26
紫苑には、千年も昔からの説話があったのですね。知ってよかったです。なるほどです。
私、紫苑に惹かれます。懐かしい思いがあって、色も優しくて、それであって、いつも逞しく、2mもの高さで咲いてくれる。うちの庭にも秋風に揺れて咲いています。しばらく紫苑が、心を和ませてくれます。
たかようじ
2010年10月09日 07:53
紫苑 > この花の  花言葉は  ”追想 ”
そう 遠くの方を 思う その気持ちで、この花を 
愛でています。見れば 見るほど、知れば 知るほど
趣のある花は 私の心を しっかり捉えて離しません。 
近々 紫苑の記事を UPしたいので、又 リンクさせて
くださいませ。正統派は 庵主さまにお任せしなければ
なりません。 2007年10月7日の”紫苑”の写真に魅せられ
思い立ちましたので、こちらを お借りしたいのですが、
よろしいでしょうか? いつも厚かましく申し訳ありません。
どうぞ よろしく お願い致します。 
2010年10月09日 17:53
牧野植物園でも紫苑は見ました。
私も亡き人を偲ぶのには”思い草”を選びたいです。
彼岸の墓参りに紫苑を手向けられたのですか。亡き人もきっとお喜びでしょうね。
私も彼岸の墓参りには 紫苑を探して見たいですね。
2010年10月09日 20:56
秋の花、菊類が咲き出しましたね。その中でも紫苑大好きです。
花期も長く丈夫なのが好いです。画像も爽やかで素晴らしいです。
庵主
2010年10月09日 23:04
にこにこ通りさん、こんばんは。
コメント有難うございます。にこにこ通りさんの紫苑にまつわる懐かしい思いとはいったい何なのでしょう。初恋の思い出ではないでしょうね。(笑)
紫苑は花期も長くて、身体は細いのになかなか逞しいですよね。花の色が格別にいいですね。庵主も派手さはないが大好きな花のひとつです。
庵主
2010年10月09日 23:11
たかようじさん、こんばんは。
コメント有難うございます。もうとっくに忘れてしまった過去の記事、三年まえにそんなのありましたっけ?(笑)写真がお気に召したとは嬉しいことです。どうぞ、どうぞお使いください。
紫苑の花がどんな表情として生かされるか楽しみにしています。お役にたてたら有難いことです。
庵主
2010年10月09日 23:19
shuuterさん、こんばんは。
コメント有難うございます。紫苑の花は今がどちらも盛りのようですね。紫苑の自生種は一部の地域では絶滅危惧種に指定されているようですが、観賞用に栽培された種が今はだいぶ野生化しているようです。ともあれ、絶やしたくない花ですね。
ご先祖さまたちと在世の私達をつないでくれる有難い花だと思います。
庵主
2010年10月09日 23:27
eijiさん、こんばんは。
コメント有難うございます。キク科の仲間達もいよいよこれからが本番とどれも張り切ってスタンバイしているようですね。(笑)
紫苑はひょろひょろしているくせに、どうしてどうして、芯がしっかりしていて逞しいかぎりです。今日など突風がきつく吹いていましたが、少々の風にも負けませんね。何と云っても花色が大好きです。
bigot爺
2010年10月10日 10:57
日本色には其々の意味と物語があるのですね?!
“日本色”に興味が湧いてきました。
2010年10月10日 20:34
楚々として咲く花は、和服姿の美しき人を思い出します。
うすむらさきの色と、シオンという響きからでしょうか・・・。
庵主
2010年10月11日 00:01
bigot爺さん、こんばんは。
コメント有難うございます。465の色があって、それぞれに由来があります。「紫苑色」とは、紫苑の花の色のような、紫草(最近ではほとんど絶滅に近いムラサキ科の多年草)からとれる染液で何回も繰り返して染められる紫色のこと。とあります。伝統色についての話も奥深く興味があります。

庵主
2010年10月11日 00:05
mugenさん、こんばんは。
コメント有難うございます。確かに和服の似合う美人に例えるのにぴったりの花ですね。名前から来る響きもよろしいですね。背高の八頭身以上の美人です。(笑)
2010年10月12日 00:19
庵主さんと同じ秋が大好き!特に十月は特別です
今夏があまりに長く、暑かったので10月には期待しないでおこうとおもっていたのに。。秋がしっかりやってきてくれ、キク科のお花が一斉に歌いだし、紫苑が日本歌曲を歌いだしたではありませんか
秋を迎えられた喜びを昔の人と同じ気持ちで眺めているようで不思議です
秋のある日本がこんなときは誇らしいものですね
2010年10月16日 17:15
はじめまして ハッピーさんの所から来ました。
格調高いお話ですね。
紹介されるお花も幸せですね。紫苑は大好きなお花です。
よろしくおねがいします。
庵主
2010年10月16日 23:34
コケ魔女さん、こんばんは。
コメントを頂きながら、ついうっかり気づきませずに失礼しました。有難うございます。
十月、十一月と日本の素敵な秋が続きますね。この頃が一年のうちで一番気に入っている季節です。
紫苑は、遠めに見ると落着いた静かな雰囲気の花ですが、近くでよく見ると、どうしてどうして、凄く神々しい感じさえする花ですね。それが、日本歌曲を歌い出すなどとは、そんな発想およびもしませんでしたが、ピッタしですね。さすが魔女さんです。
本当に日本人に生まれてきて好かったです。(笑)
庵主
2010年10月16日 23:42
はるわかさん、こんばんは。
初めまして。よくぞお訪ね下さいました。有難うございます。
私もハッピーさんのブログの大ファンです。
紫苑の花、静かで落着いた日本の花って感じがして素敵ですね。連れ合いが大好きな花で、毎年この時期が来ると咲き出してくれて癒されています。
こちらこそ拙いブログですが、これからも宜しくお願いいたします。